人間の闘争は、殴る蹴ける組み付く、武器を使う、複数で襲う、など色々な状況を考える必要があります。
その状況はケースバイケースであり、混沌としたものです。
その混沌とした様子を図式化したものを下図のように表します。

その混沌とした人間の闘争において人間が取り得る動きの中で、各種の武道や格闘技はその立ち位置を決めています。
合気道なら合気道の明確な動作の基点があります。
それを下図のように表します。

その基点から合気道の技法があると考えます。
混沌とした人間の闘争の形態の中で、合気道で想定する状況と対応方法があるとします。
まず合気道で想定する状況を下図のように表わします。
赤い丸が、手刀で額を狙って打ってくる「正面打ち」、片手で相手の片手を掴んでくる「片手持ち」など分かりやすい例に限りませんが、それらを含めて合気道が想定する状況と見て下さい。

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合気道において想定した状況に対応する技は、下図のようになります。円の内部の縦横の直線として表しています。

合気道は型稽古を基本として稽古します。
合気道における型稽古とは、技をかける方と受ける方の役割と、どのような技を行うのか先に決めて、それを繰り返して術理の理解を深めながら身体を動かして鍛えていく稽古方法です。
これは非常に優れた効果をもたらす反面、無視出来ない問題があります。
型稽古では、状況(上図の赤丸)を設定し、動きの約束をして、約束通りに動きます(円内の直線)。
しかし型稽古で学んだ以外の状況が発生した場合、一体どのように対処すればいいのか分からなくなる可能性があります。それを表したのが下図です。

それでも今のまま型稽古を続けていけば、いつかどうにか出来るように自分はなっているるだろう、つまり、合気道の稽古では想定していない状況を考えないで稽古をしていても、いつかは自動的に想定しない状況にも自分は対応出来るようになっているだろう、と思っていてどうかなるものかと言えば、それは各人の能力によると言えます。
神衛における実績から判断すると、型稽古としての強さは身に付くであろうという事は言えるようです。
それは下図のように円の内部の直線部分を太くして表現します。

また上記の内容を受けて、型稽古だけを続けていけば、想定された状況により近い状況なら対応出来る可能性は高くなる、という事も言えるかもしれません。
正面打ちで始まる技のはずなのに、相手が間違えて横面打ちを打ってきた、だけど対応出来た、という例が考えられます。
下図のように表現します。

直線は正面打ちとしての設定となっています。横面打ちは正面打ちと手の軌道はそれほど変わりません。タイミングは殆ど同じです。だから、横面打ちという状況を意味する赤丸の位置は、正面打ちの設定としての直線上にはありませんが、直線に近いところにあります。
上の左図は合気道をはじめたばかり、右図は熟練者、を意味しています。ある程度の熟練者ならば、正面打ちがくるところを横面打ちが来ても対処出来る可能性が高い事を図示しています。
養神館には自由技において「正面横面打ち自由技」という技法が制定されています。まさしく、正面打ちと横面打ちのどちらがきても対処出来る事を求めた技法です。
当団体の稽古場所にわざわざ出向き
「うちの道場には正面打ちを打つところを間違えて横面打ちでいったら対処出来る人がいた。だから、うちの道場も実戦対応を出来る道場だ。」
と言いに来た人がいます。その人がそう思うなら、それはそれで良いでしょう。ただ、実際はとんでもない間違いです。
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正面打ちをしなければいけないところを横面打ちが来た、しかし、何とか対応出来た、という事が、実戦に対応し得る能力を持つ事の根拠になるか、と言えば、ならないと言うのが我々の考えです。
キックやパンチ、タックルなど、普段の合気道の稽古では練習しない技法に対しては、対応が出来ないと考える根拠が下の図となります。

上手において、直線から離れた位置にある赤丸が、合気道の稽古で想定していない状況を意味しています。
その状況には、スピード、パワー、闘争心、など通常の稽古では接しない技法以外の要素も含まれます。
柔道や空手などの経験がある方なら、道場における乱取りやスパーリングと、試合場で他の道場と勝敗を決する事の違い、という事でご納得頂けると思います。
ましてや、逃走しようとする犯罪者が捕まりたくない一心で凶器を持って襲ってくる状況と、稽古の場所で相手が正面打ちを打ってくる状況を比べたら、その違いに大きな開きがあるのは自明です。
型稽古における状況対応の限界はある、それも限界はそれほど高くはない、と当道場では結論づけています。
これまで、基本稽古における状況対応の限界について説明させて頂きました。
つまり戦技研は、基本稽古における想定した状況を、より実戦で起こり得るものに広げていく、という考えをしています。
一番簡単なイメージは下図のようになります。

例えば、パンチやキックをしてくる相手や、ナイフなどの凶器を持って襲ってくる相手へのの対処方法の基本を初等教育課程で学んで頂いたら、より難度が高い状況における相手への対応を中等教育課程以降で学んで頂く事になります。戦技研で学んで頂く具体的内容は明かせませんので、あくまで分かりやすい例としてお考え下さい。
初等教育課程、中等教育課程、高等教育課程と段階を経て学んで頂き、各種の状況に対応出来る能力を身に付けて頂きます。
下図のようになります。

ただし、上図は、いたずらに手数が増えている、という意味ではございません。戦技研で行う技法は、養神館合気道の技術そのものです。他の武道や格闘技の技法を取ってつけるような事は行っていません。
これまで述べてきたように型稽古の長所と短所を述べると、ここでは短所の方が字数が多くなりますが、短所の方が多いという訳ではありません。
意味としての重さが異なりますので、少ない字数であっても長所の方が重い、という事も考える必要があります。
そして戦技研は、つまりは型稽古の短所を補う為の研究・訓練を行っています。それはそのまま型稽古の長所を活かす結果につながりました。
戦技研の訓練において上手くいかない場合、原因は基本技の理解不十分にある事が殆どです。つまり戦技研で上手くいかない個所が判明したら、基本の稽古に立ち戻り、その部分を更に学び直す事をします。
その時に、例えば5級の審査科目の内容を初段の人が分かっていたつもりでも、初段のレベルでは理解していなかった、という事などが分かったりします。
「正面入り身投げの体勢になったけど、相手が堪えて倒せなかった。」
という状況が起きたとします。
相手が倒れない事の原因が、自分の未熟さにあると考えず、
「合気道の技法は相手が本気で堪えたら、到底使い物にならない。」
などと考え、ここで安易に足を引っかけて強引に倒すのは如何なものでしょう。
それが実戦の場であれば問題ありません。
しかし、それが研究と訓練の場であれば、自分の未熟さに疑いを持ち、自分の入り身の位置、角度、タイミング、姿勢など、徹底的に考えるべきです。そうする事で、養神館合気道の優れた部分が実感出来るようになります
戦技研は、型稽古の短所を補い、長所を活かす、とても大切な訓練と言えます。
合気道は型稽古を行います。型稽古には、その世界特有な常識や約束事などが自然と生じてしまいます。
これは大切な事でもあり危険な事でもある両刃の刃のようなものです。
危険な事として見れば、型稽古の世界における常識や約束事は、その世界だけの心理的思考的閉鎖空間を構築しやすい事が挙げられます。
そのような閉鎖空間に閉じこもってしまうと、実際に戦える能力はないけど武道家としての地位や名誉は誰よりも欲しい、という考えの人間が育ったり、そういう人間が集まる環境が醸成されます。
理論的にそのようなものは存在し得ない「触れないで相手を倒す技」などを喧伝し、その言葉に呼応し集まってきた者たちで宗教カルトのような怪しげな団体を作るケースも見受けられます。
決められた動作の型稽古を繰り返す事で、知らず催眠効果や強い思い込み、マインドコントロールなどの状況が発生し、当人達は何も疑う事もなく一生懸命そうした活動を繰り返している事が考えられます。
そうした人達を批判する気はありませんが、神衛の方向性とは異なるものです。神衛では型稽古には総じてこのような状況に陥る危険性があり、それが型稽古の短所に成り得ると考えています。
戦技研は、このような危険を回避し、型稽古の短所を補う為のものです。
実際の戦いには、その人の「心のありかた」というものが問われます。
稽古と違い、相手は、そもそも自分の知らない人であるかもしれません。知っている人でも、それまで思いもしなかった別の凶悪な人柄を見せてくるかもしれません。
そうした相手は、こちらに何もさせないようにしてきます。自分が負けないようする為に当然の事です。憎しみや怒りなど稽古や演武ではあり得ない感情の爆発を自分に向けてきます。相手を委縮させ闘争心を萎えさせる為に当然です。
全身からみなぎる殺気と射るように睨みつけてくる目で口汚く威嚇する怒鳴り声を放つ相手を前にして、恐怖に飲まれず、それに対応出来る心の状態である自分がいるのか、という問題に行き着きます。
恐怖心は正常な人なら必ず持つ心理です。対処する能力もないのに恐怖を感じないのは、危機の認識がないだけです。それは正常ではないか、自身の危機的状況を理解出来ていないか、という事です。
身の前にある危機的状況を察知し、沸き起こる恐怖に対応出来る心になるには、それを意識した専門の訓練は必要です。同時に危機に対処する能力が高まれば自然に恐怖心への対応も出来るようになります。
通常の合気道の稽古では、そこまで踏み込んだ内容まで取り組む事は出来ません。
戦技研は、犯罪で行われる暴力に対処する訓練を、心のあり方から考えて行います。危機的状況の中に身を置き、抑制出来ない体の震えと増加する心拍数という状態でも、絶対に命を守れる方法から指導します。
神衛においては、合気道における技法の上達と実際の戦いへの対応能力は、基本的に別問題と考えています。
合気道の技法は、稽古でも演武でも型となります。型は、攻撃の方法をあらかじめ決めて、約束通りに動作を行います。
稽古や演武の中で技が上手に出来ても、それは上手に出来るようにお互いに協力しているに過ぎません。
型は、最初から最後まで動作の手順が決められています。しかし最初の攻撃方法が分かっていて、そのタイミングも格闘を前提としないものであれば、後の対処はどうとでもなります。最初の攻撃方法が分かって、そのタイミングも分かりやすい稽古や演武は、総じて型の範疇と考えるべきです。
実際の闘争においては、当然ながらそうした「最初の攻撃方法」や「攻撃のタイミング」などの約束はなくなります。稽古や演武とは真逆の環境になると言っても過言ではないでしょう。
そうなると、型とは違う状況が起きた時に、何をどうしていいのか分からなくなるかもしれません。また、自分が型稽古である合気道で学んできた事は、実際の闘争においてどれだけの能力を発揮出来るのかを客観的に知ることも難しいでしょう。
戦技研は、そうした事への対応として考え出された訓練です。型とは違う状況、つまり初めて遭遇する状況において、適切な判断を下し、最適な行動をする能力を身に付ける事を目的としています。
養神館合気道は型稽古で習得していくシステムです。型稽古とは、攻撃と防御の方法をあらかじめ決めて、約束通りに動作を行う練習方法です。
合気道の技は、その奥深さと精妙さにおいて、稽古方法を誤ると大切な核の部分が伝わらなくなります。合気道の稽古の基本が型稽古であるのは、そうした大切な部分を正確に多くの人に伝えていくためだと考えられます。
型稽古を繰り返すことで、身体が錬られ、技の理合も深く理解出来るようになります。技の手順を思い出しながら動く事から始めても、稽古を繰り返すうちに、頭で考えなくても力の流れを感じながら相手を崩す事が出来るようになります。
また、勝ち負けを競うものではないので、人間性に優れた相手と型稽古を行えば、自身も触発され、より一層稽古が楽しいものになります。
良い指導者、良い稽古仲間、良い稽古環境に恵まれて養神館合気道の稽古に励めたら、その人にとっては人生で得られる幸せの多くを得た、と言っても過言ではないでしょう。
神衛ではまず、こうした型稽古の長所を考え、そうした長所が最大限活かされるように稽古に取り組む事を重要視しています。
「戦技研とは養神館合気道を学ぶ者を対象とした実戦対応訓練であるが、簡易かつ具体的に言い表せば
1.自分より体格に優れ、卑劣で凶悪な人間性を持つ相手
2.2人以上である
3.刃物、棒、銃火器などの武器を持っている
4.何かしらの格闘技を身に付けている
上記1から4のうち、1つから4つまで当てはまる相手に対し
5.自分に及ぶ危機から離脱する
6.他人に及ぶ危機から離脱させる
7.相手を逃走させる
8.相手を逃走させず無力化する
上記5から8の全てを実行可能とする能力を習得する訓練である。
ただし初等教育課程においては、1人の相手と制限する。
初等教育課程から高等教育課程に掲げる訓練目標とする能力取得は、訓練を正しく受講さえすれば確実に取得出来る事を保証する。」
上記は戦技研募集要項より抜粋したものです。
戦技研は、初等教育課程、中等教育課程、高等教育課程、研究科、というコースがあります。
各課程の受講資格
※戦技研は神衛に所属する会員を対象としています。
【初等教育課程】
1人を相手とする。対単数戦闘と称す。
参加資格
・養神館合気道初段以上が望ましい ただし別途、実力向上研修を受講する前提として例外あり
例外1 一般の方は養神館合気道3級以上
例外2 銃火器を扱う公務員は養神館合気道6級以上
【中等教育課程】
2人を相手とする対複数戦闘基本
参加資格
・初等教育課程を修了している事
・養神館合気道弐段以上が望ましい ただし別途 実力向上研修を受講する前提として例外あり
例外1 一般の方は養神館合気道初段以上
例外2 銃火器を扱う公務員は養神館合気道3級以上
【高等教育課程】
3人以上を相手とする対複数戦闘
参加資格
・中等教育課程を修了している事
・養神館合気道参段以上が望ましい ただし別途 実力向上研修を受講する前提として例外あり
例外 養神館合気道初段以上(有段者以外の参加は例外なく認めない)
【研究科】
興味を持つ事など自由にテーマを決めて、学術的にテーマへアプローチしていく。
研究科で研究され、まとめている成果
・養神館の合気道を学ぶ者の弱点について
・演武と実戦の違いと演武の問題について
・合気道を教わった指導者が違うと戦技研の効果は変わるのか、について
・養神館合気道の試合について
・柔道や空手などの他の運動理論に基づく武道や格闘技との違いについて
・突き、蹴りの新しい運動理論の開発
・戦技研技法の開発
・訓練体系と訓練理論の構築
・一般の稽古と技法における重要な点の発見
・警察官向けの警棒、警杖の基本技法の開発
・警察官向け護身、逮捕、制圧、連行の各技術の開発
・軍用技法と訓練体系の開発
・ナイフ等、武器技術とその理論の開発
その他 多数
参加資格
・高等教育課程を修了している事
戦技研の訓練内容のアップデートは研究科での成果をもとに随時行っています。
2016年1月現在において、初等教育課程は第6期生の訓練を行っています。